美しいだけの恋じゃない
彼女以外にも、室内にいる人々がこちらを注目し始めた様子が視界に入る。


「なんか、お菓子の匂いに反応しちゃったみたいで…」

「え?」


田中さんの返答に一瞬キョトンとしたあと、菅原さんはハッとした表情になった。


「あ、そっか!須藤さん、お酒はダメなんだったっけ」

「そうなんですよね」

「すっかり忘れてた。ごめんね?大丈夫?」

「い、いえ、匂いだけなら、普段は全然平気なんです…」


私は頑張って言葉を繋いだ。


「まともに吸い込んでしまった自分がいけないんですから、どうか、お気になさらず…」

「あ、無理してしゃべらなくて良いよ」


慌てて私を制したあと菅原さんは続けた。


「どうする?トイレに行く?」

「あ、私連れて行きますよ」

「それよりも医務室の方が…」

「どうかしたんですか?」


するとそこで突然、お三方の会話に、それまでは不在だった人物の声が割り込んで来た。


すぐに正体は分かったけれど、のろのろと視線を向けると、案の定、スーツケースを手に提げた門倉保が私の左斜め後方に佇んでいた。


出張を終えてちょうど帰社した所だったのだろう。


「えっと、お客様からお菓子をいただいたんだけど、それにお酒が入っててね」

「須藤さん、その匂いにやられちゃったみたいなんだよね」

「そうなんですか。……大丈夫?」
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