美しいだけの恋じゃない
菅原さんと田中さんに答えてから、彼は私に問い掛けつつ顔を覗き込んで来た。


しかし私は返答する事ができなかった。


相手が門倉保だからではなく、一言でも言葉を発したら胃の中のものが逆流しそうで、怖くて口を開けなかったのだ。


その様子を見て一瞬思案した後、彼は自分のデスクまで素早く歩を進め、椅子に荷物を置くと、再び私に近付き力強く言葉を発した。


「医務室に行こう」

「そうね。その方が良いよね」

「立てる?須藤さん」


どんどん話が展開し、誰に向けてどのように返答しようかとオタオタしている間に、門倉保は私の背後に回った。


そしてキャスター付きの椅子を後ろに引いたあと横に移動し、私の背中と膝の裏に手を添え、そのまま持ち上げる。


………え?


いわゆる『お姫様だっこ』と呼ばれる体勢にされてしまい、その瞬間一気に全身が粟立った。


けれど、当然それに抗う気力や体力など今の私にある訳もなく…。


一瞬尋常じゃない動揺が走った事でさらに心身が疲弊し、不本意ながら、門倉保の腕にぐったりと身を預ける形になってしまった。


「すみません。どなたかお一人、付き添ってもらえませんか?」


彼が周囲に視線を配りながら問い掛ける。


「エレベーターのボタンを押したりドアを開閉したり、医務室までフォローしてもらいたいのですが」
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