美しいだけの恋じゃない
全然納得がいっていないような声音ではあったけれど、ひとまず師岡さんは折れたようだ。


さすがに年齢も立場もだいぶ上の部長に楯突くつもりなどさらさらないのだろう。


ただ、普通は上司の前で、そういう姿さえ見せないものだと思うのだけれど…。


私を扱き下ろすチャンスに恵まれた際には、どうしてもそれを活かさずにはいられない人なのだな、とつくづく実感した。


やっぱり師岡さんは師岡さんだった。


「とにかく、須藤さんには少し休んで来てもらおう。必要なら早退しても良いし。門倉君よろしくな」

「はい」

「それじゃ早く行こう。須藤さん辛そうだし」


佐藤さんの促しに一旦足を止めていた門倉保は、再び力強く歩き出した。


「須藤さん、昨日から体調が悪かったらしいんだよね。とうとうそれがピークに達しちゃったんだね」


エレベーターホールまで辿り着いた所で、下りボタンを押しながら佐藤さんが彼に向けて解説した。


「…そうなんですか?」

「うん。実は私も絶不調だったんだよ。まぁ、私は一晩寝たら無事復活したけどさ」

「季節の変わり目は体調を崩しやすいですからね」

「それも関係してるかもしれないけど、最大の要因は他にあって…」

「え?」

「あ。な、何でもないっ。ところで、どうだった?神奈川営業所の様子は」


途中で自分が何を口走ろうとしているのか気付いたようで、佐藤さんは慌てて話題を変えた。
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