美しいだけの恋じゃない
心臓がドクドクと脈打ち、額には汗が浮かんでいた。


【何って、あの夜の出来事でしょう?】


心の奥底に存在する、もう一人の私が答える。


『だって、私、あんな事を口走っていたの?それとも記憶が改竄されているの?どこからどこまでが本当にあった事なの?』

【ちょっと落ち着きなさいな】

『落ち着ける訳ないじゃないっ』


大混乱に陥りつつも、私は私に反論した。


あの時までは私は確かに、門倉保に厚い信頼を寄せていた。


尊敬もしていた。


好きか嫌いかだったら、間違いなく前者を選択していただろう。


だからあんな会話を交わしていたとしても、何ら不思議な事ではない。


だけどあんな状況であんな言葉をチョイスしていたというのが問題であり…。


【全部本当の事だったとして、それが何だっていうの?】


しかしもう一人の私は冷静に言葉を繋いだ。


【職場の先輩に、社交辞令で『好きです』なんて言うのは、当たり前にある事でしょう?それを勝手に都合の良いように解釈して相手の意識が混濁している間に手込めにするだなんて、やっぱり普通の感覚じゃないわよ。アイツは正真正銘最低の男。騙されちゃダメ】


こんこんとそう諭す。


だけど…。


その言い含め方が、とても必死で無理矢理で切羽詰まっているように感じたのは私の気のせいだろうか。
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