美しいだけの恋じゃない
そこで私は遅ればせながら周囲の状況に意識が向いた。


白い天井。


枕元以外、三方をカーテンで仕切られているベッド。


そしてそこに仰向けで横たわっている私。


ここからの景色を見るのは初めてだけれど、眠りに落ちるまでの記憶はしっかりと残っているし、それと今の状況とを照らし合わせると、ここが会社の医務室であるという事はすぐに認識できた。


あれから一体どれくらい経ったのだろうか…。


そう考え、時間を確認するべく腕時計を巻き付けてある左手首を顔に近付けようとしたその時。


ベッドから見て、カーテンの右手側がそっと開いた。


「あ、起きてたのね」


この部屋の主、産業医の…確か三村さんという女性が隙間から顔を出し、そう囁いた。


50代半ばの、ちょっぴりぽっちゃりしていて常に笑顔のとても愛想の良い方だ。


普段あまり顔を合わせる事はないけれど、健康診断の時にお世話になっているし、社内報の4月号に『五十嵐パイプ各営業所の産業医の皆さん』という紹介記事が写真付きで載っていたので、そのお顔と名前はきちんとインプットされている。


といっても、たとえその事前情報がなかったとしても、この部屋の中に居て白衣を着用してネームプレートを下げているのだから、『産業医の三村さん』というのはすぐに把握できただろうけれど。
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