美しいだけの恋じゃない
「そうね。ここに運び込まれて来た時より断然肌の血色が良いし、呂律もしっかりしているから大丈夫でしょう。2時間近く寝たものね。充分に回復できたと思いますよ」

「えっ。2時間?」


私は思わず目を見開きながら三村さんに聞き返してしまった。


「私、そんなに眠っていたんですか?」

「うん。ここに来たのが14時ちょっと過ぎで、今が、えーっと…15時47分だから。おおよそそれくらいよね」


彼女は白衣のポケットに忍ばせていた懐中時計をさっと取り出し文字盤に視線を走らせ、答えた。


「昨夜はあまり寝られなかったんじゃないんですか?」


そしてそれを元に戻しつつ続ける。


「『睡眠不足』って実はとても怖いんですよ。自分では大丈夫だと思っていても、突然ぶっ倒れる事だってあるんだから」

「…それだけでしょうか?」

「ん?」

「私が体調不良になった理由は、寝不足だけなのでしょうか…」

「うーん。持病の有無とか日頃のストレスとか、他にも要因はあるのかもしれないけど…。え?何か、思い当たる事でもあるの?」

「あ。い、いえ。自分では全く見当がつかないです。何となく質問してみただけで」


つい口走ってしまったけれど、今になって自分の発言に焦り、慌てて誤魔化した。


「そう。ただ、気になるのなら、一度きちんとあちこち検査してもらった方が良いかもしれないわね。会社の健康診断は6月で、まだまだ先だし」
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