美しいだけの恋じゃない
この室内には、門倉保と私しかいない…。


彼の方も同じ考えを抱いたようで、途端に気まずい空気が辺りを漂う。



「……あの。とても、落ち着かないんですけど…」


沈黙は私から破った。


「そこに、立っていられると…」

「え?あ…」


それまで俯き加減に佇んでいた門倉保は慌てて顔を上げ、言葉を発する。


「そ、そっか。じゃあ、俺は診察室の方に…」「ここ」


彼の言葉を遮るようにして、私はベッドサイドに置かれている丸椅子を指差しながら指示を出す。


「座ったらどうですか?」

「えっ?」


今度は門倉保は最大限に目を見開いた。


「い、良いの?」

「はい…」


だって、上から見下ろされていると、すごく落ち着かないし……。


そして彼に、どうしても話しておかなければいけない事があるから。


三村さんにお留守番を言い渡された時点でその事を思いついていた。


これはチャンスだと。


周りに誰もいない状態で彼と話す機会など、そう何度も作りたくはないし。


このシチュエーションを上手く活用しておかなければ。


私の胸の内などまだ知らない彼は、おずおずと丸椅子まで歩を進めると、そっと腰を落とした。


「仕事の方は大丈夫なんですか?」

「あ、うん」


そわそわと落ち着かない動きを見せながら門倉保は返答する。
< 156 / 219 >

この作品をシェア

pagetop