美しいだけの恋じゃない
しかし私からの回答を待つ事なく、門倉保は突然そう呟くと、ジャケットの内ポケットから手帳を取り出した。


素早く開き、付属のペンで何やらサラサラと書き込むと、記入を終えた所でそのページを破り、私に向かってそっと差し出す。


「これ、俺のプライベートの方のケータイ番号とメルアド」

「え…」

「別にこんなの知りたくもないかもしれないけど、これからの事を考えたら、連絡先は把握しておく必要があると思う。だから持っていてくれる?」


しばし躊躇してから、私は意を決し、未だ震えの残る手を伸ばしてそれを掴み取った。


そうだよね。


こんな話、周りに人がいる状態でできる訳がないんだから。


誰にも知られずこっそり連絡が取り合えるよう、不本意だけれど、この情報は取得しておかなければ。


自分自身にそう言い聞かせながら紙片を畳み、いつの間にか脱がされて掛け布団の上に乗せられていたジャケットを引き寄せ、ポケットに仕舞い込んだ。


ついでにそれに袖を通した所で、私はふいにある事を思い出す。


「あ…」


さっき見た夢。


「ん?どうかした?」

「あの…」


そこで繰り広げられていた会話について、急激に確認してみたい衝動にかられ、それを言葉に乗せようとしたのだけれど。


「お待たせー!」


ドアが勢い良く開く音と共に、快活な三村さんの声が出入口付近から響いて来た。
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