美しいだけの恋じゃない
次いでキュ、キュ、という、彼女が勢い良く床を蹴る足音。


「な、何でもないです」


私は早口でそう呟き口をつぐんだ。


その直後、カーテンをバッと押し退け、三村さんが颯爽と姿を現す。


「ごめんねー?図々しいこと頼んじゃって」

「い、いえ…」

「そんな事ないですよ」

「ホント助かったわー。ありがとうね?お二人とも、お仕事に戻って下さいな」


笑顔の三村さんに見送られ、私と門倉保は医務室を後にした。


「大丈夫?」


廊下を進みながら門倉保が問い掛けて来る。


「歩くの辛くない?肩、貸そうか?」

「へ、平気です」


体の震えもいつしか治まっているし…。


「そんな、気を遣っていただかなくても、結構ですから…」


視線は合わせず、廊下の数メートル先を見ながら返答した。


「……そう」


ほどなくしてエレベーター前までたどり着き、上りのボタンを押してから、門倉保は宣言する。


「じゃあ俺、やっぱりタバコ吸って来るわ」

「え?」

「パパっと吸ってパパっと仕事に戻るから。先に行ってて」


そう言いながら彼はさっさと歩き出し、食堂方面へと進んで行った。


その並びに、和室に換算すると6畳間ほどのこじんまりとした喫煙室が存在するのである。


社内でタバコが吸えるのはその部屋だけだった。
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