美しいだけの恋じゃない
「あ。そういえば門倉君は?」


そこで田中さんがハタと気付いたように問い掛けて来た。


「先に休憩に入って、須藤さんの様子を見に行った筈なんだけど」

「あ、はい。来て下さいました。その後、喫煙室にタバコを吸いに…」

「何だ。やっぱり最大の目的はそれだったか」

「どうしても吸わずにはいられなかったんでしょうね。でも、ちゃんと休憩中に行ってるし」

「うん。やるべき事はきちんとやってるんだから、良いんじゃないのかしら」


田中さん佐藤さん菅原さんのやり取りに黙って耳を傾けている間に営業部に到着した。


「すみません。お騒がせいたしました」


部長はもちろん、室内にいる皆さんのデスクを順に回り、先程のアクシデントについて謝罪行脚をする。


「無理しないようにね」

「今日は早く帰りな」


ほとんどの方は優しくそう言葉を返して下さったけれど、案の定、師岡さんには徹底的に無視された。


だけどこの件に関しては偉そうに何かを言えるような立場ではないので、その無言の抗議はしかと受け止め、私は静かに彼女の前から立ち去った。


自分の席に着いた所で、門倉保も帰還する。


「……門倉さん、本当に色々と、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」


他の人の手前、彼にも当然謝罪はしておくべきだろうと判断し、実行した。


「いや…。気にしないで」


彼は穏やかに微笑み、そつなく返答する。
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