美しいだけの恋じゃない
そこで体に悪寒が走り、思わず両手で体を撫でながら、慌てて窓から視線を逸らした。


それでなくても今の私のメンタルはとても不安定なんだから。


さらに精神的に負荷をかけるような、余計な事を考えるのはやめておかなければ。


自分自身を制しつつ、改めて流し台に向き合い、カップや湯呑みをトレイの上からシンクの中へとせっせと移動させる。


でも……。


出社した時から比べれば、だいぶ気分が軽くなったような気がする。


数時間前の失態も併せれば、もっとどん底まで落ち込んでいてもおかしくはないのに。


……門倉保にあの秘密を暴露できたから?


もう、一人で抱え込む必要はなくなったから…?


そこでハッと我に返り、思わず苦笑を漏らす。


そもそもの原因を作った人物に対して、きちんと責任を取らせる為に、事実を報告したまでじゃないの。


一瞬……。


ほんとにほんの一瞬だけれど、まるで彼に救ってもらったかのような錯覚に陥るなんて。


私ってつくづく、どうしようもないお馬鹿さんだと思う。


その思考は無理矢理頭から追い出し、その後はひたすら茶器洗いに没頭した。


「お先に失礼します」


当番としての任務を果たし、仕事も本日自分に課した分までは終わらせた所で定時を迎えたので、まだデスクに着いている方々に挨拶をしながら営業一課を後にした。
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