美しいだけの恋じゃない
会社を出て、徒歩と電車で家路を辿り、数十分後に無事アパートに到着する。


暖房の電源を入れて荷物を定位置に置いて手洗いとうがいを済ませ、部屋着に着替えてからベッド脇のラグの上に腰かけた。


「さて、と…」


目の前のテーブル上に置いた紙片とケータイをしばし見つめてから、自分自身に気合いを入れるようにそう呟き、それらを手に取る。


私の方も、番号とメルアド、教えておかないといけないもんね…。


今の段階では私が一方的に門倉保のデータを把握しているだけで、この状態では彼の方からは何もアクションを起こせない。


だから私も早いとこ、自ら情報開示しておかなければ。


わざわざ説明はされなかったけれど、きっと彼は私がそうする事を想定してこの紙を渡したのだろうから。


だから、面倒な事はさっさと済ませておかなくちゃね。


何だかやけに回りくどく、言い訳がましい独り言を心の中で呟きながら、画面をタップしメール作成画面を表示させる。


いきなり通話は敷居が高いということ、また、知らない番号からだとスルーされてしまう恐れがあるので、初回はメールでコンタクトを取る事にしたのだ。


それに、私は定時上がりだったけれど、彼は今日は残業のようだったので、この時間はまだプライベートの方の電話には出られない確率が高い。
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