美しいだけの恋じゃない
「あ、はい。ありがとうございます」


そう答えたあと、背後にある鉄庫の中から『高幡技建』というラベルが貼られているファイルを取り出し、椅子に腰かけつつ表紙を開いた。


インデックスを頼りに『注文書』が綴じられているページを探し当て、直近の日付から順に見ていく。


納期が来週って事は、この注文分だよね…。


当該資料が見つかった所で電話機に手を伸ばし、外線をかけた。


『はい。高幡技建ですー』


数回のコールのあと若い女性が応答する。


「私、五十嵐パイプ営業一課の須藤と申します。いつもお世話になっております」

『あ。お世話になってます』

「先ほど山田様からお電話をいただいたようで…。ご本人様でいらっしゃいますよね?」

『はい、そうですー』


基本的にお客様と直に接するのは営業マンで、また、取引きの際は各書面を担当者間で手渡しか、FAXやメールで授受する決まりなので、内勤事務員が相手方と密に接する機会はほとんどない。


ただ、送信した文書が無事届いているかの確認や、その他質問等にお答えしたりするので、声だけのお付き合いならそれなりにある。


また、取引に関する打ち合わせはもちろん、「現場が近くだからちょっと寄ってみた」という理由でお客様の方から我が社にお越しになる場合もあり、お名前だけではなくお顔まで把握している方も中にはいらっしゃる。
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