美しいだけの恋じゃない
「ただ、製品カタログを見ながらじゃないと説明できない箇所があったから、これから再度かける予定なんだ」

「……そうですか」

「えーっと。ジャパンテックのカタログはっと…」


彼はそう呟きつつ自分のデスクの一番下の引き出しを開け、目当ての物を探し始めた。


……もう発注は済んでるのに、今の段階で何を確認したいのだろう。


というか、それを見て分かる事なら、私でもお答えできたと思うんだけどな…。


そうすればこの件はとっくに片付いていたよね。


いかにも私が新人って感じで頼りなかったから『この子には無理』と判断されたのかな。


それとも、やっぱり田中さんの言う通り…。


「五十嵐パイプの門倉です」


そんな事を考えている間に彼はカタログを机上に置き、相手方に電話をかけていた。


「あ、山田さん!申し訳ない。やっときちんとお話できますねー」


満面の笑みを浮かべ、快活な口調で、この上なく愛想良く彼女に話しかける彼を見ているうちに、再び正体不明の感情が込み上げて来た。


慌ててそれを打ち消し、先ほど考えていた通り、私は茶器を回収するべく立ち上がった。


給湯室へ行き、それらを洗い終え、布巾で水気を拭き取ってから食器棚へと仕舞う。


一週間にも及ぶお茶当番の任務は、いよいよ最終章に突入した。


あとはこの布巾を漂白し、絞って所定の位置に干したら無事に完了である。
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