美しいだけの恋じゃない
門倉保はそう部長に答えたあと、自分の思惑とは違う方向に話が流れ、心底悔しそうに唇を噛み締めている師岡さんを余裕の表情で見やった。


ここまでの怒濤の展開に、私はただただ呆然とするだけだった。


渦中の人物の筈なのに、黙って成り行きを見守っているなんて、不自然なのではないだろうかと一瞬思ったけれど。


突然の暴露に恥ずかしさや照れくささが込み上げ、何も言えなくなってしまったのだと周りは解釈するだろうと、すぐさま考え直した。


むしろ真実味が増す演出になる。


この場では皆さんに、門倉保の話を信用してもらっておいた方が何かと都合が良いから。


「……でしたら」


すると今度は井上主任が徐に口を開いた。


「僕も、この機会に公表させてもらおうかな…」

「えっ!」


彼の発言に皆(そしておそらく私も)頭に疑問符を浮かべたような表情になったけれど、何故か佐藤さんだけは取り乱した様子で声を発した。


「い、いま?」

「ああ」


次いで投げ掛けた佐藤さんの問い掛けに、井上主任は力強く頷く。


「どっちみち近いうちにご報告するつもりだったんだし。今言ってしまっても構わないだろ?」

「そ、それは、確かに、そうなんだけれども…」


その会話にますます周りが困惑する中、井上主任は佐藤さんに素早く接近すると、彼女の肩を抱き、共に部長に体を向けてから言葉を発した。
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