美しいだけの恋じゃない
師岡さんは赤を通り越した紫色の顔面で、ブルブルと全身小刻みに震えていた。


「そ、それより礼子、さっきのはどういうことよ?」


そこで金子さんが我に返ったように声を上げる。


「どさくさに紛れてうやむやにしようとしたって、そうはいかないからね!」

「そ、そうよ!ちゃんと説明して!」


「……うるさい」


山本さんも一緒に抗議したけれど、師岡さんは項垂れた姿勢で、暗い声音の呟きを漏らした。


「ったく、使えない……」


「…え?」


「なんでシュレッダーなんかにかけちゃうかなぁ?適当な場所に落としておけば、シンプルに、須藤美智瑠のミスって事にできたのに…」


そこで師岡さんは顔を上げ、ギロッと金子さんを睨み付けつつ言い放った。


「前々から思ってたけど、ホントあんたって、見当違いな余計な事を熱心に押し進めて、結果すべてを台無しにするんだよね。つくづく、役立たずにも程があるわっ」


そして勢い良く踵を返し、その場からスタスタと歩き出す。


「んなっ…」


金子さんと山本さんはもちろん、自分のデスクへとたどり着き、無表情で何事もなかったかのように机上を片付け始めた師岡さんを、室内にいる全員呆然と見つめた。


「……あーっと。ひとまず皆、動こうか」


いちはやく自分を取り戻した部長が、全体に向けて声を張り上げる。
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