美しいだけの恋じゃない
ポツポツと上がる声を耳にしながら営業一課を後にした。


ロッカールームに行く前に給湯室に寄り、当番としての締め括りの作業に取りかかる。


他の課の当番は先に任務を終えたようで、桶の中には私が浸した布巾しか残っていなかった。


それをよく濯いだあと絞って干し、次に桶を水洗いする。


「あ、良かった。ここにいたんだ」


キッチンペーパーで水気を拭き取っていると、門倉保がそう言いながら給湯室内に入って来た。


「お疲れ」

「……お疲れ様です」


内心ドキリとしつつ答える。


そしてふと思い付いた。


「あ。あの、ありがとうございました」

「ん?」

「伝票を探し出して下さって…」


そういえばまだきちんとお礼を言っていなかった。


「ああ。いやいや、そんな。『探し出した』っていう程の労力は使ってないから」


穏やかな笑顔を浮かべながらそう返したあと、門倉保は続けた。


「…あのさ、この後、ちょっとだけ時間もらっても大丈夫かな?」

「え?」

「須藤に話しておきたい事があって…。ここじゃ何だから、あそこ。屋上手前の踊り場まで、来てもらっても良い?」

「は、い…」

「ありがとう。じゃあ、先に行ってるから」


そう言いながら門倉保はすでに歩き出していて、瞬く間に姿を消した。


話って……。


私に一体、何を言うつもりなんだろう。
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