美しいだけの恋じゃない
困惑しつつも、ひとまず急いで桶を片付け、電気を消して給湯室を出ると、私も足早に階段室へと向かった。


「ごめんな、こんな所に呼び出して」


階段を登り終え、踊り場まで到着し、先にそこに佇んでいた門倉保にきちんと向き合った所で、そう言葉をかけられた。


「いえ。帰っても特別、予定はないですし…」

「しっかし驚いたよなー、主任と佐藤さんの話」


門倉保は思わず、という感じで『ふっ』と笑みを溢した。


「俺が入社した時にはもうすでに付き合ってたって事だもんな。そんな素振り全然見せなかったから。そういう方面では野性的な勘が働く師岡さんでさえ気付けなかったみたいだし。つくづく役者だと思う、二人とも」

「そう…ですね」


まさか話したいというのはこの事じゃないよね…。


その考えが表に出て、探るような眼差しになっていたのか、門倉保は表情を引き締め、次の話題に移った。


「この後……師岡さん達にはまだまだ頭を悩ませられそうだな。須藤は全く悪くないのに、聞き取り調査に応じなくちゃいけなくなるし」


ここから本題に突入したのだろう。


「話の流れによってはまたもや彼女達に、不愉快な思いをさせられたりするかもしれない」

「大丈夫です」


我ながら冷静な口調で言葉を発した。


「それでも私はただ真実を、ありのままに報告するだけですから。きっと皆さん分かって下さると思います」
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