美しいだけの恋じゃない
「その…。ごめんな?勝手に皆の前で交際宣言なんかしてしまって」


それまでとはうって変わって、とても歯切れの悪い口調だった。


私は再びドキリとする。


「でも、須藤の名誉を守る為には、ああ言うしかなかったんだ。…って、俺があんな事をしなければ、そもそもそんな嘘をつく必要もなかったんだけど」


そこで自嘲気味な笑みを浮かべたあと、すぐにそれを打ち消して彼は話を進めた。


「頃合いを見て、俺達、別れた事にすれば良いから」


私の目を、改めてじっと見つめながら。


「そのうち俺、君の前から消えるからさ」


「……え?」


「次の人事異動に合わせて、転勤願いを出そうかと思ってるんだ。元々別の営業所でも力を試してみたかったし。当初の予定ではそんなに遠くに行くつもりはなかったんだけど、いっそのこと、沖縄か北海道か、とにかく思いっきり遠方を希望してみようかなと」


奥二重で切れ長で、一見クールに見えるけれど、笑うと途端に人懐こく、無邪気な印象に変わるその瞳で。


「そしたら周りには、遠距離であまり会えなくなって、自然消滅的に別れたって言えば良い。そういうエピソード、巷には溢れかえっているし。そうすれば須藤の経歴に傷がつく事はないから。……もちろん、これで許されるなんて思っていないけど…」


そこで彼は目を伏せ、表情を曇らせた。
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