美しいだけの恋じゃない
でも、私は、『他人の陰口を叩いていた』という風に見られてしまうのはとてもいたたまれなかった。


どこでどのように師岡さん本人に伝わってしまうか分からない。


「んー?そんな事ないんじゃない?」

「うん。別に騒いで暴れたりした訳じゃないし」


すでに必要な荷物を手にしていたお二人は、自然の流れで私に付いて歩き始め、部屋を出た。


「一応呼び掛けには答えてたし、支えられながらではあるけど、タクシーまでちゃんと自分の足で歩いてたもんね」

「酔っぱらいの中ではかなり優等生の部類だと思うよ。だから別に、みんな何とも思ってないんじゃない?」

「そ、そうですか…」


ドアから数メートル程離れた、出入りに邪魔にならない位置まで進んでから立ち止まり、改めてお二人に向き合いつつ言葉を返した。


実は自分自身、そこら辺の記憶は全くないのだけれど、何とか理性を保とうとギリギリの所で頑張っていたんだな。


たった一口で体に異変が表れてしまったけれど、反対に言えば、一口で止めていたからこそ、その程度で済んだのだろう。


もし、味や匂いの違和感に気付けず、あれ以上の量を摂取してしまっていたとしたら、一体どうなっていた事か…。


考えただけでゾッとする。


「でも、さっきの師岡さんの言葉で疑惑が確信に変わったわ」


そんな事を考えている間に田中さんが話を進めた。
< 27 / 219 >

この作品をシェア

pagetop