美しいだけの恋じゃない
田中さんがこれだけ憤慨するのには理由がある。


彼女いわく、新入社員の頃、同期で仲の良かった女性が営業一課に配属されたのだけれど、教育係として付いた師岡さんによって会社を去る羽目になったらしい。


「『教育』を大義名分にして、これでもかとばかりにイビってたみたいなんだよね。結局半年ももたなかった。私は入社直後は別の課だったから、リアルタイムでは庇ってあげられなかったし、まがりなりにもあっちは6歳も年上だからね。別部署の先輩に文句を言えるような度胸もなくて…」


その話をして下さった時も、田中さんはとても悔しそうな、そしてかなり苦しそうな表情で語っていた。


「それにやり方が巧妙というか、その現場を見ていた人でさえなかなか口出しはできなかったみたい。「業務に関する指導中ですけど何か問題でも?」って言われてしまったらそれ以上は踏み込めないというか。それに、うかつな関わり方をしたら、ますますその子が辛く当たられてしまうんじゃないかっていう思いもあったみたいで。これは後から聞いた話だけどね」


いかにも自責の念にかられているようだった。


「新入社員なんだからそりゃ分からない事だらけで段取りも悪いのは当たり前だよね。でも、師岡さんはそれを許さなかったし、まるで鬼の首を取ったかのように責め立てた。結局その子、胃腸を悪くしてしまって、その治療に専念するという名目で辞めて行ったのよ」
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