美しいだけの恋じゃない
部長の乾杯の音頭に従って周りの人とジョッキを触れ合わせたあと、何の疑いもなく口元まで運んだ。


適量を口内に流し込んだ瞬間『あ』と思ったのだけれど、条件反射でそのまま飲み下してしまったのだ。


慌ててジョッキを鼻に近付け、そこで遅れ馳せながら、仄かにアルコールの匂いを嗅ぎ取った。


周り中、種類の異なるお酒の匂いで溢れかえっていたので、すぐに気付く事ができなかったのだ。


でも、ほんの一口だし、お酒そのものではなくベースは烏龍茶のようだから、大丈夫かもしれない。

すぐに帰ったりしたら場をシラケさせてしまうだろうし…。


そんな事を悶々と考えながらジョッキはさりげなく遠い位置に置き、目の前の料理を食して気を紛らせていたのだけれど、時間が経過するにつれてだんだんと動悸が激しくなって来て目の前がグラグラして来た。


そして、誰かに「須藤さん大丈夫か?」と問いかけられたのを最後に、記憶が途絶えている。


「あ。ただ、門倉君には素面の状態で、改めてお礼を言っといた方が良いかも」


自分の世界に入り込んであの時のいきさつを反芻していた私は、田中さんのその言葉に我に返るのと同時にギクリとした。


「須藤さんのこと、一生懸命介抱してたから」

「うん。普段のチャラ男っぷりからは想像できないような、紳士で大人な対応でしたよね。思わず見直しちゃった」

「あ、噂をすれば…」
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