美しいだけの恋じゃない


余計な事は考えないように黙々と仕事をこなしているうちに、あっという間に時間が過ぎ去り、無事に定時を迎えた。


むしろ、普段よりも処理能力が上がり、数日中には終わらせようと考えていたイレギュラーな業務まで完了させる事ができたので、何とも皮肉なものだと思う。


門倉保は午後は外回りに出かけ、そのまま直帰になったのでほとんど接する事なく済んだのも精神衛生上良かったのだろう。


ただ、今日さえ乗り切ればそれで良いという事ではないのだけれど。


これからも、彼とやり取りをしなくてはいけない場面は何度となく巡って来るから。


4月に人事異動はあるけれど、私の勤めるここ、五十嵐パイプは特別な事情がない限り、短期間で頻繁に社員の配置変えを行ったりはしないらしい。


数年間一処でじっくりと経験を積ませて、それから本人の希望も取り入れつつ他の部署、もしくは他の営業所へと異動させるようだ。


しかし、営業所間の異動はあくまでも本人の意志が尊重される。


たとえば会社側が一方的に、3月までは九州だったけれど4月からは秋田営業所へ行くように、などという、多大なる負担を強いるような辞令を下す事はまずない。


入社試験の段階で希望勤務地を三候補まで挙げさせ、いざ採用が決まった際、本人の希望に沿った配置をし、そして入社後も定期的にそのヒアリングをしている。
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