美しいだけの恋じゃない
不審感を抱かせないように、学校は1日も休まず、朝元気に家を出て、疲れたけど楽しかった、という表情で夕方帰宅する、という行動を取り続けた。


親にだけは心配をかけたくなかったから。


自分達の娘がそんな侮辱を受けている事実を、知らせたくはなかったから。


ごく少数だけれど、味方になってくれている友達がいるのだから、私はまだまだ恵まれている。


外野の中傷には負けずに、清く正しく美しく、自分が自分を誇れるように、ただ粛々と真面目にこの世界を生きて行けば、いつかきっと報われる日はやって来る。


そんな風に、今にも崩れ落ちそうになる心を、必死に励まして慰めて、だましだまし、綱渡りのような毎日を過ごし、そしてどうにか、その苦難を乗り越える事ができたのだ。


穏やかな日常を手に入れる事ができたのだった。


それなのに…。


他人に何を言われても踏ん張る事ができていたのは、私の体はまだ清らかである事を、私自身は知っていたから。


その真実が私の尊厳を守り、精神の均衡を保ってくれていたから。


だけどその最後の砦はあの男によってあっけなく破壊され、その先にあった私のプライドは無惨にも打ち砕かれてしまった。


だから私は門倉保を憎む。


この命が尽きるまで憎み続ける。


今度はその憎悪を新たな心の支えにして、生きる糧として、これからの人生を歩んで行くんだ。
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