美しいだけの恋じゃない
「ああ、それはあるね」

「うんうん」


金子さんと山本さんは力強く同意した。


「ホラ、覚えてる?ずーっと昔、私が教育してやってた新入社員が辞めちゃった時も、散々上から責められたじゃん」

「ああ、アレね」

「忘れる訳ないでしょー。私もすんごい悔しかったもん」

「ただ仕事の指導をしてただけなのにねぇ」

「私らだって先輩に厳しい事言われて、ビシバシ鍛えられながら仕事を覚えて行ったわよね?その時は誰も助けてくれなかったくせに、こっちが指導する立場になったらコンプライアンスがなんちゃらかんちゃらで色々制約ができて来てさ」

「今や先にいる私達が後から入って来た者に遠慮して小さくなってる有り様だもんねー」

「ホント納得いかなーい!」

「とにかく、アラフォーで、顔面偏差値の低い私が騒いだ所で、誰も味方なんかしちゃくれないわよ」


自嘲気味な笑みを浮かべている事が窺える声音でそう締めくくってから、師岡さんはハタと気付いたように続けた。


「あらやだ。もうこんな時間」

「え?あ、ホントだ」

「良い頃合いだね。じゃ、そろそろ行こうか」


その会話に次いで、化粧ポーチやバッグをいじっているのであろう、カチャカチャという音やファスナーを閉める音が室内に響き渡る。


ようやくストレスの元凶が立ち去ってくれる事に少しだけ精神が落ち着き、同時に体の力が抜けた。
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