美しいだけの恋じゃない
しかし、尋常じゃなく強張っていた体は上手くコントロールできず、思いの外大きい動きをしてしまったようで、腰かけていた便座を揺らしてカタンッと音を立ててしまった。


「えっ!?」


途端に洗面台の方から驚きの声が湧く。


「あそこ誰か入ってたのっ!?」

「うそー」


その言葉に冷水をかけられたように全身がヒヤリ、となった。


他の二つの個室は使用されていない時はドアが開いている状態だけれど、私が居る所は常日頃閉じていて、無人かどうかはドアノブに付いている小窓の色で判断するようになっている。


つまり近距離まで来なければ確認できず、ずっと洗面台の前に陣取っていた彼女達は今まで他の人物が居たという事に気が付いていなかったようだ。


どうりで明け透けな会話を繰り広げていた訳だ…。


「えー。ずっと話を聞かれてたワケ?」

「ヤバくない?」

「いや、でも、全然物音がしなかったよ?息を殺して他人の会話に聞き耳立ててるなんて、ちょっとさぁ…」


ひそひそ声だけれど充分聞こえる音量で三人は会話を続けた。


「あ。もしかして、中で寝てたりするんじゃないの?」

「分かんないけど…」

「良いよもう。早く行こう!」


そこで山本さんが二人を急かした。


個室内に人が居る事は把握したけれど、さすがにそれが誰であるかという事までは分からないだろう。
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