美しいだけの恋じゃない
師岡さんは話すごとにどんどん興奮して行き、最後の方はほとんど絶叫に近かった。


これでは廊下どころか、エレベーターホール付近まで丸聞こえなのではないだろうか。


「何よ。たまに私が、ミスとも言えないような些細な見落としをしただけで、まるで鬼の首を取ったかのような顔をしちゃってさっ」


自分自身はそんな表情を浮かべた自覚はこれっぽっちもないのだけれど、今の彼女には何を言っても無駄であろうと思う。


「ちょっとすみません…」

「失礼します」


この危機をどう脱しようかと思案していると、作業を終えたらしい先程の女性二人が、そう断りを入れながら、部屋の中央に仁王立ちしている師岡さんの脇をすり抜けるようにして足早に給湯室を出て行った。


私はいつ解放されることやら…。


思わず心の中でため息を漏らしている間に、師岡さんはとても嫌な笑みを浮かべ、フン、と鼻を鳴らしながら言い捨てた。


「ほんっと女に嫌われる女だよねー、あなたって。一体どういう育てられ方をしたんだかっ。親の顔が見てみたいわ!」


それまではひたすら、彼女の精神を落ち着かせる方向で打開策を練っていたのだけれど。


言いがかりだとは感じつつも、誤解を与えてしまった事に対してはひとまず謝罪の言葉を述べておいた方が良いだろうと思っていたのだけれど。


その発言を聞いた途端、そんな考えは一瞬にして消え失せた。
< 98 / 219 >

この作品をシェア

pagetop