美しいだけの恋じゃない
頭の中でブツリと、何かが切れた音が響き渡る。


「……やめていただけますか?」


私は何を言われても良い。


「親の顔が見たい?冗談じゃありません。あなたのような人間性に問題のある方に、大切な家族を会わせたくなんかありませんので」


だけど、お母さんとお父さんを侮辱するような発言だけは断じて許せなかった。


「至らない点があるのならば、どんどん指摘して下さってかまいません。それは真摯に受け止め、出来うる限り改善して行きたいと思います。ですが…」


自分でも驚くほどの急激な感情の変化だった。


「八つ当たりにも程がある、妄想混じりの理不尽で不愉快な主張を、大人しく聞いていなくてはいけない義務は、私にはありませんので」


それでも興奮で声が震えたり掠れたりする事もなく、比較的明瞭な口調で、彼女の目をしっかりと見据えながら宣言する事ができた。


門倉保のお陰で、他者への怒りのモチベーションの上げ方、それを維持するスキルは充分過ぎるほどに身に付いていたので、このようなシチュエーションでもまごつく事なく行動できたのだろう。


その点に関してだけは、あの男に感謝だ。


「あなたは一体何をしに会社に来ているのですか?」


もう私の勢いは止まりそうになかった。


「他人の粗探しや、出所の怪しい噂話をする事ばかりに精を出していらっしゃるようですが、そんな自分が虚しくならないのですか?」
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