シチリア
「だって、わたしはあなたの婚約者なのよ」
自信たっぷりに、エマはそう言う。
「僕は承諾してない」
「あなたの意見なんて関係ないのよ」
「…………」
さりげなく、とても恐ろしいことを言われた。
「婚約を破棄したければ、早くあなたがお父さまの跡を継ぐことね」
「………」
そう言われてしまっては、ぐうの音も出ない
僕はメディチ家の三男だ
相続順位的に、次に跡を継ぐのが長男、次に次男……果たして、僕にまわってくる頃には、相続するものなんて残っているのだろうか
まあ、簡潔に言ってしまえば、僕が父の跡を継ぐなんて可能性は限りなくゼロに近い
更に要約すると、家同士が決めた婚約者であるこのエマとも、なかなか簡単に縁が切れそうにない。