鬼社長のお気に入り!?
 ヤガミ工業が倒産に追い込まれていなければ、ステージの上にある商品は今頃すでにヤガミ工業のものとして世の中に出回っていたかもしれない。そう思うとなんだか胸が痛い。


「八神さん、あの……つらくないですか?」


「……は? なにがだ?」


「だって、あれは元々八神さんのお父様が立ち上げたプロジェクトの商品ですよね? それを桐生さんがまるで自分のものみたいに――」


 すると八神さんは無言で私の肩に手を回してやんわりと抱き寄せた。「俺は大丈夫だ」という八神さんの気持ちがそのぬくもりから伝わってくる。


 桐生さんが商品を実際に説明しながら今度はパワーポイントを起動させた。


「おい、お前、さっきからなんか落ち着かないな」


「え……? そ、そうですか? なんでもないですよ?」

 無意識に身体がソワソワして落ち着かない。そんな私を八神さんは怪訝そうに窺ってくる。


「ふぅん」


 八神さんはなんとなく私がなにか隠し事をしているのではないかと勘ぐっているように思えた。けれど、今はなにも言えない。


 桐生さんがプロジェクターでスライドをスクリーンに映し出す。


 緊張で私は何度も固唾を飲んでじっとスクリーンを見つめた。


 先ほど私が仕掛けておいたものがうまくいけば、全てはここで終わる。何もかも……。 私のしたことはある意味犯罪に近いのかもしれない。けれど、ここで桐生電機に隠されている悪い膿を洗い出さなければ……きっとなにも変わらない――。


「それでは皆さん、こちに具体的な資料をご用意しましたのでご覧下さい」


 桐生さんが手元のパソコンを操作しながら、ポインターを使って詳しい商品の説明をしていく。


 お願い……! 全てなにもかもうまくいって――!!

 私の中で終焉のカウントダウンが始まる。祈る気持ちで私はぐっと目を閉じ、手を組み合わせた。
< 329 / 367 >

この作品をシェア

pagetop