柴犬主任の可愛い人
……結局、事情を説明はしたけど、柴主任は強引に兄に連れていかれてしまったけど……。
病室に戻った両親たちに改めて自己紹介をしてくれた柴主任は、ようやく誤解を解いてもらい、けれども娘の彼氏になってくれないかと両親から詰め寄られていた。私はそれをベッドの上から止めることも出来ず。兄が柴主任を連れ去ってくれたことは助かったけどそれだけ。目的等他は駄目だ。
起きてからずっと恥ずかしい。手術跡は燃えるみたいに熱くて痛いけど、何回かそれを越える羞恥で焼け死にそうだった。
「青葉。母さん泊まったほうがいい? 成人したただの盲腸の娘には過保護って思われちゃうかしら」
母は、人の話を聞かないけど、そこはやっぱり母親だ。騒がしくされて疲れた私の近くに椅子を置いて座り、安心をくれる。そういえば、昨日は心細くて寂しかったな。一緒に住んでた頃は、寝込むことは少なかったけど、そうしたときには必ず母はこうしてくれたっけ。ひとつだけ、ワガママを叶えてくれるのだ。
「大丈夫。狭い部屋だし片付けてないけど。布団は来客用もあるから出してね。お兄ちゃんは……閉め出しで」
苦笑いで頷く母は、兄の今現在の行動をわかってるんだろう。そして父は、父も兄のことをわかっているけど、コメントしづらいようで黙ってしまった。
兄は、オープンエロなのだ。一時期セクシー男優になるとか言って家族を困らせていたから、このくらいは放置しているらしい。そして、違う道を歩ませてくれたお義姉さんに心底感謝している。飲み会で一目惚れしてしつこかった兄を受け入れてくれた、器のでかいお義姉さんは、けっこう人類最強だと私は思っている。
「明日、別に来なくていいからね。観光楽しんできて」
「来るわよ。失礼な」
「そうだそうだっ」
観光ガイドを握る両親に笑えてきて、これ以上傷口に負担をかけないためにも、眠ることにした。
両親をベッドから見送り、そのあと汐里に、来てくれるのはありがたいけど明日で構わないよとメッセージを送ると、じゃあそれでと返信がある。お礼の言葉だけ最後に伝えてから、
そういえば、今日から動かなきゃいけないんだっけと思いながら、睡魔にいつの間にか飲み込まれていった。