柴犬主任の可愛い人
――……こんこんと眠るとはよく言ったもの。
看護師さんが消灯に来てくれたり、点滴の交換に来たときも、検温でさえもだなんてどんだけだ。私は一切目を覚めすことはなく、気持ちよく眠り続けてた。
遠くで人の咳や歩く気配、金属が軽くぶつかる音で少しだけ意識が浮上する。けど、それはまだほんの少し。夢見る私を自覚しながら夢を見る。
朝、なのかな? 瞼はまだ開かない。開きたくない。
そういえば、今日からご飯が出るんだっけ、お粥とおかずも少し。昨日の夜は重湯があったみたいだけど無理だった。今もあんまりお腹は空いてない。傷口の痛みは、若干楽になった気がする。
寝返りを簡単に打てない不自由な身体が、せめてもと顔だけ横を向く。すると、凄く好みな石鹸の匂いが鼻腔をくすぐった。それはなんて、
「いい匂~い……」
病院の枕とは違う、柔軟剤みたいな優しい匂いは、どうやら枕元に置いてあったタオルから香る。横を向いた先にあったから気付かなかったんだ。お母さんが置いていってくれたのかとそれを握ると感触も柔らかくて好き。あんまり心地いいものだから、また深い眠りに落ちていきそう。
ああ、でもいっか。盲腸切ったし、ゴールデンウィークなのに遊びにもいけなくなっちゃったし……。
「おはようございます」
「っ!?」
けれど途端に覚醒する。
まさか人がいる感じなんて、部屋の中に気配しなかったし。忍者なのっ!? 末裔!?
「おはようございます。青葉さん」
そして恥ずかしい今なら死ねるっ……私が握ったタオルは、実はそうじゃなく、一瞬だけそこに置いた柴主任のパーカーだった。タイミングよく握ったそれを慌てて離すのも、動揺を伝えてしまいそうで敢えてそのまま。
「……おはようございます……柴主任」
というかなんでいるんですか今いったい何時ですかと問おうとすれば、柴主任はカーテンの片方を開け、ただいまの時刻は朝の八時ですと、サトリの術を発動させた。