柴犬主任の可愛い人
 
 
「あと、家泊まってけって。明日休みだしこんな天気だし、飯食ってからなんか電車動いてないぞ。うちから神田んちなんて遠いだろ」


「前より遠くなったよ。広瀬の馬鹿」


「だったらお前も引っ越せば? 更新四月だから考えてるって言ってたよな。そのほうが俺にも平穏が訪れる」


そうなのだ。汐里が引っ越して、私たちの家は前より距離が離れてしまった。物件探しの際、密かに汐里は私のとこともう少し近くなったらいいなと考えてくれていたらしいけど、そこはやはり私を優先するわけにはいかない。


結果、新築マンションが好印象で家賃問題もクリア。いくつか見た中でもダントツだった場所に決定した。あと半日迷っていたら、見知らぬライバルに奪われてたらしい。


お互いに納得した場所だったけど、広瀬は少しばかり汐里に責められている。私の家に行きにくくなったと。


……まあそれも、私が最近落ち込んでたせいなんだけど。純弥のときを悔やむ汐里に、けれど黙っていたのは私だと言っても、心配は尽きないらしい。逆だったらどう思うのかと怒られた。


「うーん。そうしたほうが楽ではあるけど、広瀬は迷惑じゃない?」


違うけど、新婚のようなところに泊まりにいくのは勇気がいる。それに、汐里はいいとして、同僚である広瀬もいる家に泊まるのはなんとなく違和感。社員旅行だってすっぴんは見せなかったし。


広瀬は、私が渋るのが疑問でしょうがないらしい。なんでどうしてと首を捻る様子に、考えるのもアホだなと思えてきて、


「着替えも既に神田のが用意してある。感謝しろ」


「それは前から置かせてもらってたやつでしょ。――じゃあ、泊まる」


「おう。そうかそうか」


お言葉に甘えることにした。


お土産として、お酒を帰りに調達していく手筈になっている。どの種類をどれくらい必要かと広瀬に訊ねれば、日本酒にビールにワイン、カクテルまで多種多様なリストを挙げられた。


「多くない? 三人で」


「いや。あと四人来る。俺の大学んときの連れが」


「はあっ!?」


それは、初耳だ。


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