柴犬主任の可愛い人
伊呂波も今日は早仕舞いだからと追い出され、積雪五センチの道路を踏みしめる。
「寄っていきましょう」
伊呂波の向かいのコンビニに有無を言わさず連れていかれる。サンドイッチやスープを買い込む柴主任はうきうきで、遠足のおやつを選んでいる子どもみたい。あまりにも楽しそうだから、人間にも尻尾があるとしたら、きっと千切れんばかりに揺れているんだろうな。名前どおりの犬種のくるんとした尻尾が。
「買いすぎですよ。もったいない」
「明日は外出られないかもしれないでしょう」
「なるほど」
なんだか、お互いに前と同じで拍子抜けする。そりゃそうか。急に甘い言葉なんて盛りだくさんにしたら血糖値が上昇してよろしくない。
だから、少しずつ。
買い物を済ませると、柴主任はコンビニの出入り口からずれて立ち止まった。
そういえば、柴主任の新しい住処はどこなんだろう。引越しした当初は、訊いちゃいけないって触れなかった。
訊ねると、今から来ますかと誘われ、突然の誘惑に何も言えなくなる。
「青葉さん」
「はい……」
「どちらがいいか、選ばせてあげます」
「何をですか?」
「僕にお持ち帰りされるのと、僕をお持ち帰りするの――どちらがいいですか?」
「……三番目の選択肢は?」
「ありません。寒いので早く決めて下さいね」
柴主任のコンビニでの買い物の中には、そういえば、私の好きな具材のサンドイッチと、ずっとはまっている紅茶もあった。
甘い甘い、突然の誘惑に、私は背伸びをする。
届かないのに気づいてくれて、柴主任も背を曲げて協力してくれる。
そうして近づいた柴主任の耳元で、私は希望の選択肢と、お返しに甘い言葉を伝える。
顔を真っ赤にしてくれた柴主任は、どうやら私が想像以上にデレるのには弱いみたいで。年甲斐もなく照れまくる姿に可愛いなんてきゅんとする私は、これからも時折この作戦を使うと誓う。
「なんなんですかその可愛いの。……破壊力抜群です」
「それはなにより。――ずっと、そうやって私にどきどきしていて下さいね」
今度は私から、手を繋いで指を絡めた。
――END――


