柴犬主任の可愛い人
――……
そんなこんなから一時間後。
私はいつもの通勤経路の復路、その電車に揺られている。座席に座れたから暖房が気持ちいい。冷えた身体にじわじわと沁みる。
隣には、車内を走り回りたいと昂る上機嫌な柴主任が座っていて、ぎゅうぎゅうにくっついてくるから少し窮屈だ。
職場で色々あって、バレて、倒れてしまえたらと目を閉じたあと、健康体の私にそんな奇跡は起きるはずもなく……。
私に辞めないでと嘆く柴主任を励ますように、私と付き合っていることはここにいる人たちだけの秘密にすると広瀬が親指を立てた。他の人たちもぶんぶん頷いて、しまいにはコピー用紙を一枚持ってきて、拇印を押して誓いを立てた。きっと近いうちに、広瀬は守る会の会員に推薦されるんだろう。
それらは会議室で行われ、感動する柴主任に感極まった会員たちは、柴主任の夢を叶える算段を話し合い始めた。二人きりで残業は簡単だけど、エレベーターで二人きりはどうしようかと。いい大人たちが何を考えているのか……。
辞めるとかはもう言わないから、どうかもう解散してくれと泣きつくと、何故か私よりも浮かれてくれながら、皆さん雪の中、三々五々に帰っていった。なんか、色々と言いたいことはあるけど、平和な職場でなによりだ。
「青葉さん、どうかしましたか? 表情が無に近いです」
「色々ありすぎて、正解のテンションを見失ってるだけです」
「そうですか。――なら良かった」
広瀬づたいで汐里から、今日の私の予定をいつの間にか譲渡された柴主任と、家路をたどることとなっていた。ドナドナ。
電車はいつもよりゆっくりと進む。雪で動かなくなっていなくて良かった。他の路線も調べると大丈夫みたいで安心する。
なんかもう、 ライフゲージをごりごりに削られた日だったけど、隣にいてくれる人が幸せそうにいてくれるから、いいや。
改札を抜けて伊呂波へと連れていかれ、ゲットしましたと誇らしげに繋いだ手を上げられて 、またごりごり削られたけど……
うん。幸せだからいいや。