柴犬主任の可愛い人
もう怒ってくれてもいいんです柴主任。何故だかわからないけど、主任のそのプライベートのだらだらした感じとか意地悪く笑ってくる感じが、時に私をおかしくさせるんです。なんかこんな扱いでいいやとか、存在をスルーして亮さんや華さんと楽しくお喋りしてみたり、時にわざとぞんざいな扱いをしてしまうんです。
「別にいいんじゃないですか」
「……う、ぇぇ?」
「僕も楽しいですし」
「……」
「……弄られるのがではなく、です。僕を被虐趣味にしないで下さい」
ジト目で訝しがる私に、いつぞやと同じように柴主任は心外だと目を細める。眉が下がり気味なのが切実さを増すなあ。
「楽しいのが何が悪いんですか?」
「うっ……それは……」
もうその押し問答は初回に終わったはずだと言われたけど、問答まではしてないよね。
っ、でも考えるよね。
「迷ってても、どうせ神田さんはこうして来てしまうし」
「だって、亮さんがダッチオーブンでローストチキン作るって言うから。……その誘惑には抗えません」
お誘いを受けた日も、喚きはしなかったけど、同じような葛藤で即答出来ずにいたところ、亮さんはぼそりと呟いたのだ。毎度毎度鳥料理を頼む私の好みを囁くなど容易かったらしい。皮とか大好きっ。
「例えば――」
チキンの誘惑にふらふらした私を笑いながら、柴主任は、指を順番に折っていった。楽しいことが駄目じゃない理由を。
「当分いらないと言ったって、神田さんはまだ若いですから、きっとそのうち恋愛で悩みもするでしょう」
「……」
「仕事だって、壁だらけでどこかでは躓きます。加齢によって身心のメンテナンスだって気を配らなくてはいけなくなるし……加齢臭とか陰で言われるようになったらどうしましょう神田さんっ」
とりあえず指はあるだけ折ってしまった。いつの間にか柴主任自身の心配事になったそれに、科学の進歩を信じましょうと気休めを言っておく。
「煩わしいことなんて、どうせあちこちからやってくるんです。回避も出来ないから、その時その時いちいち悩みますよね」