柴犬主任の可愛い人
「古村さんがもし来たら、本当に追っ払って下さいね」
「了解です」
「当分、結婚とか彼氏とか恋愛とか……私ごめんです。だから」
「――奇遇ですね。僕もです。特に社内恋愛は真っ平ごめんと今は思うくらいには」
お互い根に持つタイプですかね、と苦笑いの二人だった。
「今、何年か振りに楽なんです。仕事は楓さんいなくなって難しい仕事も増えたけどやりがいはあるし、残業あっても約束破っちゃうとか気にしなくてもいいし、休みは友達優先出来るし。気を使ってたわけじゃないけど、考えることがひとつなくなって、それが比重あることだったから、なんか……」
白状だとは思う。なくなってしまったら楽になったなんて馬鹿か。こんなんじゃ、いつか次があったとしても堂々巡りだ。反省をしてないんだから。
でも、それは必要な時間でもあったんだよ。ダークサイドとの折り合いをつけるための。ひと休憩の。
「……勿論、付き合わなけりゃ良かったなんて言わないけど、私、楽だとか思えるようになるなんて正直意外で。……不謹慎かもしれないけど、今は、まだ暫くは、そういうのがいい」
まだ、友達にも別れたとしか伝えられてない。詳細なんて必要ないのかもしれないけど、それを言えない私が問題だ。後ろ暗くて後ろめたくて、消化も何も出来てない。蓄えたいのだ。認めて省みる力を。
けど……
でも……
「……ってそんなんでいいと思いますか主任っ!!」
「っ、えっ何っ?」
びくりとして柴主任は飛び起きてしまった。当然か。膝を抱えてたと思ったら突然激しく訊ねられたんだから。
言葉にしたら己が馬鹿過ぎてたまらなくなった。恥ずかしくて今夜はきっと眠れない。
「こんなっ、昔好きだったアイドルとかゲームとか漫画とかが完全に噛み合わない世代の違う上司を交えて遊んでもらって図々しく甘えて呑んで、そして上司を何故か小馬鹿にしてしまって赦されてる今が楽しいとかっ!! 恐っ!!」
「……色々酷い……。神田さんは、限界値に達するとぶっちゃけすぎる人なんですね」