柴犬主任の可愛い人
暖色系の色で柔らかく照らされた店内は、入って左手に上着を掛けるスペースが格子で仕切られてあり、奥に向かってカウンターがコの字に伸びていた。席数は九席。そのうち二席は、お仲間じゃないサラリーマンの男性が二人、間隔を空けて座っていた。カウンターの奥には小上がりの障子扉がある。個室かな。
「こんばんは。お待ち合わせですか?」
「あっ、いえ一人なんですけど……」
鞄を胸元で抱きしめながらおずおずと答える私に、美人な女性店員さんが促すように椅子を引いてくれる。コの字のカウンターの右端から二番目、他のお客からも離れていて、背中は壁で落ち着く席に。
熱いおしぼりをもらって手を拭くと人心地つく。それだけの行為で湿り気のあった外気の煩わしさが消えてくみたい。もっと爽快感を得たくなってグラスビールを注文した。
「メニューに無いものでも、可能な限りご希望にはお応えしますので仰って下さいね」
カウンターを挟んで向こう側、簡単な作業や仕上げが行える調理スペースには板前さんがいて、どうやら従業員は二人だけみたい。ご夫婦なのかなと脳内推測する。板前さんの背後の壁には、本日のオススメが和紙に書かれて飾ってあった。
お米大好きな私は、我慢が出来ずに焼おにぎりとだし巻き卵と鶏の唐揚げを注文する。カロリーとか炭水化物とか野菜不足だとかは敢えて無視した。なんとなく、そんな気分だったのだ。
注文したものが運ばれてきた頃に男性客が二人とも帰り支度を始めた。その際、横目でチラリと私のほうを見ていった気がする。やっぱり、こういうお店に女ひとり、そしてがっつりメニューのラインナップは可笑しく映るのかな。
少しばかり居心地の悪さを感じたけど、お客を送り出したあとの美人店員のお姉さまに微笑まれたから気にすることはなくなった。
両の手のひらを顔の前で合わせて軽く目を閉じる。
「いただきます」
そういえば、今日イチのちゃんとしたご飯だな。朝のコーヒーとお昼のサンドイッチを思い浮かべ、目の前の美味しそうな唐揚げから頬張ることにした。