柴犬主任の可愛い人
別に避けてはなかったんだよ。ちゃんとメールや電話はしてたもん。
汐里に最後に会ったのは、元彼からのプロポーズの少し後だった。報告会となったその日の夕食では、汐里がお店の人に頼んでケーキを用意してくれてて驚いた。それはこれからも、とても大事な思い出。
別れたことを……伝えたのは、そうなってからずいぶん経ったあと。伊呂波で柴主任と話してから。汐里にさえ、私は話せずにいた。
一番の親友にも言えなかった私はとんだチキンで白状だ。
怖かった。汐里が怒るのが。怒られるのが。私の非を言われる覚悟がなくて怯えてた。
知らせると同時に電話の向こうとこちら、その両方の声は水分を含んでいて、素面で親友に泣けて昇華出来た部分は大きい。……そうやって泣かせてしまうだろう未来予測も容易だったものだから、言い出せなかったんだけど。
同じ大学だったから、汐里も元彼を知ってたし交流も、私を通してあった。あの馬鹿と言ったきり汐里は、私を怒ることも元彼を非難することもしなかった。
今度会ってそのときに。ちゃんと時間とってご飯行こう。覚悟しておけ。
会いたいのに、最後の言葉に心臓が縮んだのは汐里には秘密だ。
そうして、いやお互いの都合が合わなかったのもあるけど、のらりくらりと躱して、会わない期間はもう半年以上になってきて、私も今年あと何日かという今、さすがに自分から連絡とろうとはしてたんだよ?
……なんて、汐里からしてみれば言い訳にもならないよね。
〈ごめんなさい。ミスって残業〉
〈シュウデンマデマツカクゴ〉
ひいっと悲鳴を上げてもどうにもならない。隣で急かす広瀬に手伝ってもらい、指先を入社以来最速で動かすことにした。
私の提出があるまでは、柴主任も帰れないらしい。帰っていく他の人にお疲れさまと言いながら、広瀬とこそこそ話す私を、少しばかり拗ねた視線で眺めてくるのを感じていた。
やっぱり怒ってるよね……。