柴犬主任の可愛い人
そうして、今日は厄災の日だと、降りかかった追加事項に目眩がした。
……いや。全部自業自得だよわかってるよ。
「神田」
「何。私忙しい。今日直帰じゃなかったの?」
今日は社内全体が忙しくなく、殆どの人が退勤していく中、隣の広瀬が出先から舞い戻ってきて深刻な表情。けど相手にはしないぞ。広瀬の深刻など、さかむけを自分で悪化させたときも同じだった。
忙しいんだとスルーを決め込むと、広瀬は予言をしてくる。何故か自分のコートを脱ぎながら。帰らないのか。
「メッセージが来ているはずだ。汐里から」
「っ!?」
その名前をスルー出来るはずもない私は、直ぐ様スマホのチェックに意識を飛ばした。
〈 シゴトハヤクオワラセロ シタデマツ 〉
なんで電報風なのか理解出来ないっ。大手の美人受付な人間のメッセージだとは誰が想像つくだろうか。その文章の背後には血糊が見えるくらいには、長年の付き合いにより憤怒の情が見てとれた。
「おい。早く既読にしとけ、ひとまず。でないと俺が殺される。……なんでだよ。デート断られたのは神田のせいか」
汐里は、私の大学からの親友で、三年前に広瀬と私が仕切った飲み会で、広瀬は汐里に一目惚れし、押して押して土下座して汐里を頷かせお付き合いに至った。らしい。土下座は汐里が言ってただけだけど、本当だと思う。
どうやら、直帰を汐里に呼び出され潰され、果てには私への伝言係となった広瀬は、美人な愛する彼女の言うままに忠実に任務を遂行しに来たらしい。
だが断りたいっ。
「そんなの知るかっ。既読イヤ。私知らない……ってああっ!! 何すんのよっ」
広瀬が勝手にポップアップをタップし、私が汐里のメッセージを見たんだと伝わってしまった。
「今日会えなかったら通うってよ。それまではデートなしってマジ勘弁だからな。で、なんでずっと避けてるん?」
「……」
同期と親友の仲を拗らせるのは忍びないと、震える指で残業の旨を返事した。