柴犬主任の可愛い人

 

盛大な噴き出し音を響かせながらの私の驚きは、口に含んでいたビールを声の主の顔面に浴びせてしまい……。


「きゃあっ!! ごめんなさいすみませんっ、申し訳ありません脱いで下さいクリーニングして返しますから主任~っ!!」


主任が何故か、いつの間にかひとつ飛ばした隣の席に座ってて、その主任に私はビールを浴びせたのだ。


「気にしないで下さい。服は無事ですし。しかし神田さんは器用に吹き出しますね」


なのに主任は、今日の夕刻、花束を抱えて駆け込んできた私にしてくれたのと同じ柔和な笑みで、そう言ったのだった。てか、顔面だよ、汚したの。眼鏡が光ってますよ申し訳ありませんっ。


「でもっ」


「あ、それよりこれ食べて下さい。今日のは自信作なんです」


女将さんが持ってきてくれたおしぼりで顔や眼鏡を拭きながら、主任がずいずいと押してきたのは白いお皿で、その中には茶色いクレープ包みのような物体が二つ乗っかってた。


あまりにも顔の近くに差し出されるものだから、にこにことした主任の顔色を窺いながら茶色い物体を摘まんで口にする。すると、それは甘いお菓子で、茶色い生地の中からは口当たりのいいクリームとつぶ餡が出てきた。生地はクレープよりもモチモチとしてて黒糖の風味がする。クリームはいつも食べるのよりも好みかもしれない。


「美味しい」


「それは良かった」


「モチモチがいいっ。このクリームもあっさりしてて好きです」


「米粉なんです。クリームは豆乳ですよ」


「くどくなくてこっちのが食べやすいです。主任はお料理上手なんですね」


「混ぜて焼くだけのものですから簡単なんですよ」


頷きなから美味しさを表現しつつ、口内のモチモチ加減を堪能してたところ、残りも食べていいよと言われたので遠慮なくそうすることにする。あとで主任にレシピを教えてもらいたいくらいどストライクな味だった。


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