柴犬主任の可愛い人
「追いかければ間に合う距離しか離れていない。青葉さんが望めば、あいつは戻ってきますよ」
きっと、気持ちはまだあるのだからと柴主任は純弥を、怒った顔で推測する。
不覚にもその言葉にどきりとした。
「……それは、するつもりはないです」
きっと、
「――、そうですか」
それはもう、恋でも愛でもない。
それは、
「残響、なんです。ただの」
それはあまりにも激しいと、まだ音が鳴っている最中だと勘違いもしてしまう。たった一言で突然終わった過去の別れ話。純弥も私も、そんな中にいたのだ。一年以上放置していた“きちんとした別れ話”のせいで、続いていたもの。
でもそれも、今日を限りに止んでいく。
少し恥ずかしい。自分らしくない詩的な表現の感情を、けれども柴主任は最後には理解をしてくれ、そういうことかと何度も頷く。
「だから、やっとすっきり終われました。ありがとうございました」
「それで良かったと思いますよ」
思えば柴主任は、この件に関して一年前も今も、私を肯定してくれる。それが心強くて、今日の私が純弥に対して色々言えたんだとも思う。
自分の中にあんなに純弥に対して言葉があったんだと驚いたと同時に、四年間にはちゃんと重みもあってくれたんだと安心した。
「……本当に、好きだったんです」
「そうですね」
「けど、私、純弥に対してずいぶんあっさりしてたなあって、別れてからずっと……それってどうなんだろうって……」
「あっさりしてたとは思いませんよ」
「でも今日、怒って文句言って……純弥に、悪いとは思いながら、ほっとしました。――本当に、好きだったんだって。あまり、泣かなかった最後だったけど」
もう終わった長い恋愛は、今日やっと、地に足がついたみたいに区切りをつけられた。
「青葉さんは真面目すぎますね」
「楽な方に逃げた結果だと思いますけど」
「涙の量なんて人それぞれです。青葉さんが凛としていられるのは、性質や時間や周囲の助けで成り立っていて、あなたがそれを受け入れてきた結果だ。つよくて柔軟な青葉さんだからだ。今、そうやって笑っていられるのも。それはとても好ましいことで」
優しいのだと、私から見れば貴方のほうがそうでしょうという人に言われても、実感など湧くはずもないけど。
とても、救われた。