So Far away
まるで友達同士のような関係だと思われても構わない。
どうせ初恋なんてそんなものだ。

すっかり感傷的になった自分は目を覆った。耳をイヤホンで塞いだ。
こんな辛い気持ちになるなら、辛い思い出だ。
デートの思い出なんて、死んだ人間を前に思い出すものじゃない。あのとき消え失せたはずの恋心も叫び声をあげている。


でも


嫌だ、嫌だ。


忘れるなんていやだ。


私は覚えていたい。


ちゃんと、彼を覚えていたい。



イヤホンには音楽は流れていない。
流れていたとしても聞こえないだろう。



「あれ?もしかして寝ちゃった?」

寝てなんかないよ。

「だいぶ長い間座ってるからな、そりゃ疲れるよな。」

あんたもつらいよね。
そんな汽車に乗ったまま死んじゃったんだから。

「あと何分で着くっけ?……あっ!!切符無くした!!」

全く、最期まで馬鹿やってたんだ。

「ねぇ、会いに来てくれて、私は嬉しかったよ。」

慌てる彼に、私は声をかけた。

「ありがとう。もう十分だよ。」

『あったー!!』と大声をあげて切符を振り回す彼に微笑む。

「あなたに会えてよかったから。」

トンネルの向こうから光が差してきた。
彼の姿がどんどん霞んでいく。
彼は相変わらず目の前で馬鹿ばっかりやってる。
目頭が熱い。
涙が出ないように、目を閉じた。

「守ってくれてありがとう。」

トンネルを抜けると、彼の姿はすっかり消えていた。
目的地の駅まであと少し。
< 8 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop