終われないから始められない
遠慮無く、奢ってもらった。
家の少し手前に小さな公園がある。
私達は今、二人してベンチに座ってる。
凄く静かだ。
暗くなる時間が早く成りつつあるこの時期は、子供の帰りもきっと早いのだろう。
特に話さない。
でも、嫌な沈黙じゃない。
弘人がポケットから何か取り出してるみたいだった。
高いモンじゃないんだ、と言いながら、私の首に腕を回す。
付け終わると、ほら、と、トップを掌に乗せて見せてくれた。
キラキラした小さい粒がぎっしり埋められた可愛いサイズのハートだった。
隠れるようにYとHのアルファベットが後ろで仲良く揺れてる。
「今は長めに留めてある。
あとで好きに調整しろよ?
まだ学校もあるし、これなら何とか、バレずに付けてられるだろ?
就職祝いだ。おめでとう。
ん?なんだ、気に入らなかったか?
やっぱ俺ってセンス無いかもなー、ごめん。
嫌だった…」
「ううん、違うの。
凄く嬉しい。凄く、可愛い。凄く素敵。
ありがとう、弘人。
凄く嬉しいよ」
高い弘人の首に腕を回して、押し倒すくらいの勢いで思わず抱きついていた。
いい香り…。
車に乗った時も、微かに香ってた。
…弘人の香り。
「なら、良かった。
…おい。…俺は別にこのまんまでもいいんだけど…、お前、ヤバくないか?
近所の公園で、男襲ってたって噂になるぞ?
誰が見てるか解んねーからな」
「キャー!ごめんっ」
「だ、か、ら、俺は別にいいって。…何もそんな急に離れようとしなくてもいい…。
…あんな、祐希。
ちょっと真面目な話、聞いてくれないか?」
弘人が首に回した私の腕掴んでいた。
名残惜しそうに解きながら続ける。
「お前は卒業したら、一人暮らしして仕事するんだよな?」
「うん、そのつもり。
ていうか、絶対そうする」
だって…、あんな親から少しでも早く離れたい。
「そうだよな…。
…祐希。卒業して仕事に慣れたら、っていうか、お前が俺でいいと思うなら、結婚しないか?俺達」