終われないから始められない
「なあ、祐希…」
「なに?」
ペラペラと貰ったカタログを眺めていた。
「海の方にでも行って見るか?」
「うん。うん、行きたい!」
カタログをドアポケットにしまった。
「近くにパスタ屋さんがあるから、そこで昼にするか?」
「うん!」
海からの風と、長く続く砂浜、清々しくて気持ち良かった。
打ち寄せる波をギリギリで避けながら、弘人の少し後ろを手を繋いで歩いた。
スニーカーで正解だったな。
「そろそろ店、行くか?」
「うん。美味しい空気吸ったら、お腹空いてきた!!」
「ランチセット、AとB、お願いします。
食後の飲み物はアイスコーヒーと…ミルクティー?ホットで」
弘人が注文する。
散々迷った挙げ句…私がだけど、結局、AとBにして、祐希が好きに食えばいいじゃん、と弘人に即決された。
「だって…どっちのパスタも食べたかったし、どっちのデザートも食べたかったんだから…すぐになんて決められないよ…」
「うんうん唸って無いで、最初からそう言えば早いの!」
「ごめん、食いしん坊で」
「祐希から食べること取りあげたら、この世の終わりみたいになるもんなー。
よくあるじゃん。死ぬまで残り24時間しかなかったら、何しますかっとかさ。
それって絶対、食いまくってるよな、お前なら」
「もー、酷い。なにそれ…」
俺は祐希と一緒に居られれば、それだけでいいかな。
「お待たせしました。ごゆっくり、どうぞ」
もう少しでギャーギャー言い合うところだった。お店なのに…子供みたいで恥ずかしい。
パスタもデザートもどれも美味しかった。
約束通り、弘人のプレートのモノも遠慮なく頂いた。
食べる私を見て、幸せそうに食うなー…、子供だな、まだまだ、と弘人が言った。
「えー、弘人だって一つしか違わないじゃん」
「一つも、違う。
社会人一年生、ナメんなよ?こーこーせーのお子ちゃまとは成長の度合いが違うっつうの」
「はいはい、直ぐに大人に追いつきますよーだ」
「ああ、早く大人んなれ。待ってるし」
ん?…また、よく解らないことを…、急に静かに呟くし。
でも、弘人がよく話してくれるようになったのは凄く嬉しいかも。
食後にミルクティーを飲んだ。
これも、美味しいかもー。
自分の車買って、運転出来るようになったら、来ちゃおーっと。
「そろそろ、帰るか?」
会計で弘人が財布を出した。
あ、そのお財布。使ってくれてるんだ。
去年、17歳の誕生日、弘人ん家にお呼ばれして、あの時持って行った時のだ。
「弘人、私の分」
「いいよ、こんくらい。
今日は俺に奢らせて。
なんたってー、社会人だしぃ」