終われないから始められない


朝から夜まで。つまりは通して働けるようになって来た。

相変わらず心は不安定。

仕事の時は、別人。
毎日言い聞かせ、努力して、“自分"をつくる。
そして仕事をこなす。

なんとかなるモノだ。

今日は25日だ。
慣れてるとはいえ、いつもより忙しいはずだ。

すっかり遅くなった。

遅くまで開いてるから、きっとまだ間に合う。
おばちゃんの元気を貰いに行こう。

買い物して帰ることにした。

もう…、なんで銀行出てすぐ降り始めるかなー。
大降りになる前にせめて、店には辿り着きたい。

直ぐに大降りになった。
どうやら、濡れる事は決定のようだ。

鞄を頭に翳して走る。

前から人が。

避けたつもりが、少し肩が掠ってしまった。

謝ったつもりだけど、止まる事なく、どんどん走り去って行った。

…え。

私は今、有り得ない事に捕われている。

この香り…。それにあの体格も…。

追い掛けても無理だった。

そんなはずない、逢えるはずが無い…。

わたしはネックレスに手を当てていた。


「…ただいま」

弘人じゃない、…よね…。
誰にも聞こえない。
心の中で呟いた。



「いやー、やっと了承して頂き、嬉しい限りです。谷口さん」

相変わらず、私のような者にも丁寧な言葉で接してくれて徹底してるな、感心する。

今日はキラースマイルの出納さんに熱望され、お食事会だ。

そろそろお鍋もよくなる季節。
居酒屋さんに来ている。

出納さん曰く、話し声、気にしなくていいから程よく賑やかな居酒屋はグッドです。だそうだ。

仕事の終わりがまちまちという事なので、私と、うちの女子行員二人と出納さん(名前はあとの自己紹介でって言って頑なに教えない、ある意味ちゃんとしてるのかな?)がお店に居た。

「うちはあと三人来ます。
僕はあくまで幹事ですから…、それに妻も子もある身なんで。…残念!」

なんて言ってる。
取り合えず、飲み物だけ先に頂くことにする。

例によって下戸だと言うと嘘ばっかり、なんて言われる。
本当ですよ。なんて言ってると人が入って来た。


「遅くなりたした」

声を揃えて二人現れた。
175cmくらいかな、二人とも。
まだ学生っぽい感じで、愛ちゃんと未来さんの隣にちゃっかり座った。

「林です」

「森です」

そんな事あり?!なんて思っていた。

「掴みはOK」

なんて言う。
名前は本当だと言う。
丁寧に名刺を頂いた。

本当だった。

面白いけど遊び慣れてるなー、この二人。軽い。
本当に合コン要員だなと思ってた。

取り合えず、唐揚げや、サラダ、揚げだし豆腐、厚焼き玉子(蟹入りで絶品らしい)など注文して、みんなで適当に摘んでいた。


「すみません、遅れました」

三人目の人が現れた。

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