終われないから始められない


約束の日の朝。

携帯が鳴る。

「祐希〜、起きてるか?」

「ゔ、ん…」

殆ど眠れなかったから、起きてるけど眠い。

「フ、酷い声だな。
なあ、どっか行きたいとこあるか?」

「ん゙ー特に無いかも」

「そっか。じゃあ、1時間後に迎えに行くから。
準備、間に合うか?」

「うん」

「じゃあ、あとでな」

「うん、あとで」

あっ、何処に行くか解ん無いから…洋服どうしよう。
ワンピースとか…、柄じゃ無いし、いつも通りデニムにしようっと。
弘人の前でワンピースなんて…、何だか恥ずかしいもん。

友達は結構メイクしてる。
私は、ほんのり色付くリップくらいしかしない。
女子力、低いのかな…。

でも何だか、まだ、いいかな。
これでいい。


「俺の会社じゃないんだけど、車、見に行って見ないか?」

初めて弘人の運転する車に乗せてもらってる。

迎えに来てくれた弘人は、助手席のドアを開けて、今日だけサービスな、
と言って私を乗せた。
いいか?閉めるぞ、と言って静かにドアを閉めた。

目的のお店は弘人の先輩が勤めている店だと言う。

「色々見て、祐希が買う時の参考にすればいいし、カタログとかも欲しいのがあったら言えよ?」

「うん、私ね、チョロQみたいな丸っこい可愛い車が欲しい」

「そうか。まー、まずは免許からだよな」

「そー!そーだよ。
取れなきゃずっと乗れない…」



先輩は爽やかで笑顔の素敵なヒトだった。

流石!営業マンの鏡。


「乗りたいのあったら試乗してくれば?」

先輩が勧めてくれた。

「祐希、どれか、乗ってみたいのあるか?」

「ううん、見てるだけで今は充分。
それに、普通にシートに座ってみたりできるし、中も見られるし、それだけで充分楽しい」

「そうか」

暫くの間、サービスのコーヒーを頂きながら、弘人の仕事ぶりや、今まで知らなかった先輩とのエピソードなど談笑した。

楽しくて、あっという間にお昼を過ぎていた。


「先輩。じゃ、そろそろ。
長い時間、すいませんでした。
有難うございました」

「有難うございました」


弘人の先輩は、営業マンらしく、また、遊びに来てよねって、最後は頭を下げてお見送りしてくれた。

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