夏彩憂歌
ゆっくりと席を立つと、ジーンズの尻ポケットで携帯が震えた。

取り出して見ると、珍しく日本にいる親友の修司からだった。

「もしもし。どした?」

「あ、悠?ひっさしぶり!高校卒業して以来会えてないな~。たまにこうして話すけど。元気か?」

「まあまあ。お前は?」

「相変わらずだよ。ちょっと急いでるから手短に済ませたいんだけど、あのさ、ちゃんと会えた?」

「は?何の話?」

「え?」

修司は少し狼狽して黙った後、

「あ、ごめん。なんか、タイミング間違えた」

そう言って、ヤツはじゃあなと電話を切ってしまった。

「ワケわかんねーヤツ」

俺は少しだけ笑って、店を出た。


エミリと話をしたカフェから自分のマンションまでは徒歩で5分くらいだ。

少し早足で歩く。

こんな日はさっさと寝てしまおう。

月が、あんまりにも綺麗だから。

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