夏彩憂歌
マンションのエレベーターを上がる。

いつもどおり、扉が開く。

ここまでは本当に、いつも通りだった。


俺の部屋のドアの前に、誰かが座っていた。

エレベーターから降りた俺の姿を認めた様子で、小さく声を洩らした。

「あ……」

その人影は小さく動いた。


どこかで聴いたことのある声。

優しくて、柔らかくて。


日本人?


ゆっくりと立ち上がる。

月明かりにその姿が映し出された。

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