夏彩憂歌
「……う、そだ」

驚きで声が出なくなるかと思った。

「なんで?嘘だ」

掠れた声でそう呟く。

彼女は笑った。

少し大人びたけれど、全く変わらないあの笑顔で。

「嘘じゃないよ?」

恋焦がれたあの人が、大事なあの人が、忘れられないあの人が、今この瞬間に目の前にいる。

5年越しに、国境を越えて。

彼女が俺に、会いに来た。

「菜摘?」

「うん。悠ちゃん、変わってないね」

ふんわりと笑って、それから彼女は少し顔をしかめた。

「煙草、吸うの?匂いが染み付いてる」

「ゴメン」

小さく謝る。

「もう二度と吸わない。煙草なんて」

「うん」

うれしそうに笑う彼女は、あの頃から変わってない。


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